
熱海ならではの『干物』を通じた新たな交流とビジネスのヒント
企業研修にも活用できる干物体験2025.1003
オフィスを離れて普段とは違う場所で会議や研修を行う企業は、その土地だからこその体験を求めるケースが多い。
熱海では、名産の干物を通じた特別な時間を過ごせる。
その味を満喫するだけではなく、干物をきっかけに人脈が広がり、ビジネスのヒントを得る機会もある。
■創業710年「小沢ひもの店」 干物の老舗店のビジネス転換
数ある選択肢から、どの街を選ぶのか。温泉、オーシャンビュー、美術館など、熱海には人を惹きつける要素があふれている。中でも、熱海ならではの名物といえば、「干物」がある。
熱海を象徴する干物店の1つ、小沢ひもの店は地元で最も長い歴史を持つ。創業は今から1300年以上前の710(和銅3)年。当時の製造法を現在も受け継いでいるという。
小沢ひもの店は店名の通り、元々は干物を販売する専門店だった。現在も店頭には、熱海近海で水揚げされたばかりの魚を使った多種多様な干物が並ぶ。ただ、代表の小澤毅さんは、老舗のブランドだけでは生き残れないと危機感を抱いていた。そこで始めたのが、立ち飲み屋だった。
「現状を変えていかないといけないと妻と話していました。私は、ここで生まれ育ちました。店の歴史を知っているので、自分の代で何かを変えることに躊躇いはありました。すごく悩みましたが、やるしかないと決意しました」
■干物を通じた交流 情報交換や出会いの場
立ち飲み屋の特徴は、来店客がその場で選んだ魚をお店で焼いて食べられるところにある。お酒を片手に新鮮な干物を味わう贅沢な時間を過ごせる。そして、小澤さんは店を「交流の場」と位置付ける。
「立ち飲み屋を始めてから、お客さまの年齢層がすごく広がりました。地元の方、観光客、移住者と幅広く、人が人を呼んで新たな交流が店内で生まれています。ここが情報交換や出会いの場になっています」
スーツを着たビジネスマンも来店する。首都圏からビジネスで熱海を訪れ、仕事が終わったらふらっと立ち寄る。常連客の中には、小澤さん夫妻に仕事の相談をしたり、愚痴をこぼしに来たりする人もいるという。
■「喜んで後押し」 店が新たなビジネスを生む拠点に
熱海は企業の研修や会議など、ビジネスでの需要が高まっている。小沢ひもの店は席数が15席ほどと広くはないため、小澤さんは団体で熱海を訪れた企業には3~5人のグループに分かれて時間差で来店する方法を勧める。
「この店では、顔が知れている人同士ではなく全然知らないお客さんと会話してほしいです。干物を食べることも熱海らしい体験ですが、干物をきっかけに色々な人と交流する時間が思い出や財産になると思っています。初対面の人同士で連絡先の交換もよくしています。食べていただく、飲んでいただくのは当たり前。しゃべりに来てほしいですね」
実際、小沢ひもの店を拠点にビジネスや新たなつながりも生まれている。熱海をはじめとする伊豆エリアにある飲食店の商品を店のメニューに加えて宣伝したり、場所を提供してイベントを開催したりしている。「やりたいことがあると相談してもらえれば、喜んで後押しします」と小澤さん。人と人をつなぐ小沢ひもの店では、肩ひじを張らなくても、自然とビジネスのヒントや交流へと発展していく。
■「釜鶴ひもの店」「HIMONO DININGかまなり」 干物づくりのワークショップが人気
釜鶴ひもの店も、熱海を代表する干物店として知られている。網元を起源とし、約160年前に干物店へ転換した。2年半前から始めたレストラン「HIMONO DININGかまなり」では干物の新たな可能性を開くアレンジメニューを提供。さらに、干物づくりを体験できるワークショップが人気となっている。
ワークショップでは、当日に市場で買い付けた魚を開き、洗ってから塩漬けする一連の作業を経験豊富な職人から教わる。さらに、希望者は干物づくりの前に、市場を見学して魚を買い付ける体験もできる。網元を経て干物店、さらには飲食店を展開した釜鶴ひもの店だからこそ提供できるサービスと言える。
干物づくり体験を始めたきっかけは、園児を対象にした食育だった。5代目の二見一輝瑠さんが17年前に地元の保育園から依頼を受け、魚を開いて干物にする場を設けた。園児の中には干物を食べたことがない子どもや、開いた魚が泳いでいると誤解する子どもがいたという。二見さんは「地元の食文化を若い世代に伝えていかなければいけない」と使命感を抱き、保育園での干物づくり体験を毎年続けている。また、イベントで出張体験も開催し、熱海に根差す干物文化を発信してきた。
■市場の見学から干物づくりまで 企業研修やレクの選択肢
こうした活動が好評だったことから、二見さんは「HIMONO DININGかまなり」の店内に干物づくりの専用スペースをつくった。観光客だけではなく、最近は企業の利用も増えている。企業の規模は幅広く、人数も5人前後のグループや20人ほどの団体など様々。研修の翌日にレクリエーションとして活用する企業が多い。二見さんは「熱海ならではの体験を求めて、お問い合わせをいただきます。市場の見学から干物づくりまで経験していただくと、より熱海らしさを感じられると思います」と語る。
実際に体験した人の満足度は高いという。提供された干物を食べるだけであれば味の良し悪しで終わってしまうが、二見さんの説明で魚を学び、実際に魚に触ることで食に対する意識が変わる。
味を楽しむだけではない干物を通じた交流や体験は、研修プログラムやレクリエーションの1つとなる。熱海らしさを感じるひと時が、組織やビジネスに新しい風を吹き込み、次の一歩を後押しする。